番外編2・雪夜幻想
翌朝、十無は既にいなくなっており、まもなく昇が交替で来た。 「何かあったのか、お前らしくないなぼうっとして」 「別に」 そう言ってソファに座り、ただ何をするでもなくぼんやりと窓の外に目をやり、ゆっくりと落ちて来る綿雪を眺めていた。 「おかしな奴だな、昼飯は何を食べる?」 「まかせる」 「任せるってなあ、俺が作るのか?」 「……ねえ、キスって弾みでしちゃう?」 アリアは、十無と同じ顔をした昇を前に、じっと顔を見つめていると、一瞬十無に問いただしているような錯覚に陥った。 「な、何を突然」 昇は思いもよらないことを訊かれ慌てた。 「十無と、何かあったのか?」 「……うん」 まさかうんと言う答えが返ってくるとは思わず、昇は絶句してしまった。 「昨日あったことは忘れろって言われちゃった」 ははっと笑いながらアリアが言った。 「……俺だったら忘れてほしくない」 昇が真顔でそう言い、アリアをじっと見た。 「昇?」 「俺、お前のこと……お前がもし、男でも」 アリアは昇に抱きすくめられた。身動きできない程きつく。 「昇、苦しいって。離せよ」 「嫌だ、お前十無ともう……」 アリアはそのままソファに倒されて長いキスをされた。 「昇、誤解だって……」 再びアリアにディ―プなキスをしながらベルトを乱暴に外そうとした。 「俺の立場なんかどうでもいい、気持ちは変えられない。アリア、俺じゃだめなのか?」 昇はカーッとなって冷静さを失っていた。今まで内に秘めていた思いが、噴出しているようだった。 「昇、やめろっ!」 その時、部屋のドアが開き十無が叫んだ。 昇ははっとして、少し冷静さを取り戻し十無の方を一瞥すると部屋を出て行った。 「アリア、大丈夫か? ……すまんな」 「なぜ十無が謝るの」 乱れた衣服を慌てて整えながら、何事もなかったかのようにいつもの調子でアリアが言った。 「……不安なんだ、俺達。お前がふっと何処かへいなくなってしまうんじゃないかって」 「……」 「変だよな、俺は刑事だしな。でもお前が気にかかる」 「やめようこんな話」 「聞いてくれ、アリア。せめてヒロとのことをきちんと話してくれないか。あいつはお前の何だ」 「……義兄だよ」 「そうじゃなくて……好きなのか」 「わからない、でも大切な人。ヒロがいなかったら生きていけなかった」 「今は、違うだろう?ヒロがいなくても……俺じゃ……」 「……刑事辞められる?」 「それは……」 「冗談だよ」 ソファにもたれかかり、ははっと笑いながらアリアは言った。 「アリアが堅気になれば問題ないじゃないか」 「そんなこと、無理だ。それに過去は消せない」 アリアはそう呟き、クッションを抱え込むと顔を埋めた。 十無はその横にそっと座りアリアの髪を撫ぜた。 「私は何もかも偽り。刑事さん達は何も知らないしこれからも何も知らないほうがいい。今までの関係のまま」 アリアはポツリとそう言うと、すっと立ち上がりにっこりして言った。 「ね?今のこと忘れる」 「アリア」 「じゃ、そういうことで」 「何処へ行く?」 「……シャワー浴びてくる」 アリアが部屋から出て行った後、十無は両手で頭を抱えた。 「もう無理だよ、今までどおりなんて」 |
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