氷の唇1

 その口をふさいで
 私の言葉をお聞きなさい
 じっと耳を澄まして
 忘れないで
 きっと忘れないで
 
 吹雪いていた。
真夜中、一軒家の小さな山荘にアリアはじっと待っていた。
窓から、何度外を確認しただろう。
さっきから、長椅子と窓を往復していた。
 窓から覗く景色は、夜だというのに、辺りを真っ白に染める雪で、視界は一面白く遮られていた。
 雨と違い、音もなく降りしきる雪。
 時折、風の音だけがゴウと響く。
「ヒロはどうしたのかな」
 静寂を破りたくて呟いてみた。
 テレビはなく、ラジオは雑音が酷く、聞くことができない。携帯電話も電波が届かないような北海道のとある山間。
 耳なりがするような静寂。
 CDでも持ってきたらよかったと、アリアは悔やんだ。
 こんな吹雪の日は心細くなる。
 お化けを怖がる歳でもないが、誰かと過ごしたかった。
 だが、待ち人は来ない。この吹雪では、もう今夜は来ないかもしれない。
 アリアは小さくため息をつき、長椅子に足を投げ出して座った。
 目の前のテーブルには、飲みかけのバーボンのオンザロックと、今回の収穫である現金、百万円の束が5つ、無造作に置いてあった。
 首尾よく、獲物は簡単に盗み出せた。簡単すぎて拍子抜けしたほどだ。
 しかし、ヒロとはぐれてしまった。祝杯のお酒も、一人ではつまらない。
 つい黙々と飲んでしまい、バーボンの減りも早くなっていた。
 酔うことで、不安な気持ちを紛らわせていた。
ここはいざという時の待ち合わせ場所。時間がかかっても、ここに待っていれば必ず来るはずだ。
――ヒロに限って、心配はないと思うけれど、何もトラブルが起きていませんように。
「ヒロ?」
 外で物音がしたような気がして、再び窓辺に駆け寄った。
 だが、車の影はない。
「なんだ、気のせいか……」
 アリアは小さくため息をつき、ふと、窓硝子に映った自分の姿に視線を移した。
 いつもの黒いサングラスが映っている。習慣で、かけたまま過ごしていたのだ。一人でいるのだから、顔を隠す必要もないのに。
 硝子に映る自分を見つめ、肩をすくめて苦笑した。
 いつもと同じ、少年のような服装。白いシャツにパンツスタイル。
 肩につきそうな髪も、無造作にしている。

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