氷の唇11
まだけだるさが抜けないアリアは、横になったまま「いや、何もないよ」と答えたのだが、柚子は納得しない。
「だって、なんだかアリア……感じが違う。まさか、ヒロと!」
「何もないって!」
アリアは側で甲高い声を上げる柚子に、寝ていられなくなり、仕方なくゆらりと上体を起こし、ソファに座りなおした。
頭が重かった。アリアは両手で頭を抱えた。
「どうしたの? 大丈夫?」
「心配要らない、ちょっと疲れただけだと思う」
アリアは柚子に心配かけまいと、顔を少し上げ、微笑んだ。
茶髪に三つ網の柚子が、団栗目をしてこちらを覗き込んでいたかと思うと、ぱあっと顔を赤らめ、俯いてしまった。
「どうしたの?」
「私、なんだか変。アリアは女だって判っているのに、見られると、どきどきしちゃう」
「えっ?」
――ヒロも、おかしなことを言っていた。いつもと雰囲気が違うとか……。
「もしかして、私が変なのかもしれない。でも、よく思い出せない」
アリアは眉間に手をあて、考え込んだ。
「なんだかよくわからないけれど、今のアリアは、私でも押し倒されたいって思うくらい、魅惑的なのよ」
何がどうなっているんだかわからないが、どうやらそれは確からしい。
帰京途中、歩いていると、何人かに振り返られ、不思議に思っていた。
「ふ、ふーん。面白いわね。あ、そうだ、夕飯のお買い物に行ってくる。アリアは出掛けちゃだめよ」
思いついたようにそう言って、柚子はさっさと出掛けてしまった。
柚子に言われるまでもなく、アリアはけだるくてとても出掛ける気にはなれなかった。
再びソファに横になった。
「アリア、いるか?」
うとうとと、ようやく眠りかけた頃、東昇(あずまのぼる)の元気な声が聞こえてきた。
柚子は鍵をかけていかなかったらしい。いつものように、昇は勝手に部屋に上がってきた。
アリアは、横になったまま、側に置いていたサングラスをかけた。
「昇、いつも言っているけれど、勝手に上がらないで」
「そう硬いことを言うなよ」
「柚子ならいないよ。だから、夕飯はまだできていない」
「酷いな、まるで俺が夕飯をめがけてきたような言い方だ」
「違うの? いつも朝食たかりに来るくせに」
「俺はだなあ、お前が犯罪に走らないよう、未然に予防しに……」
「そうやって、仕事サボってばかりいると、首切られるよ」
アリアは横になったまま、いつもの調子で憎まれ口を言った。
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