氷の唇4
 居間に戻ると、黒髪の彼女は暖炉の燃え盛る炎をじっと見詰めていた。
「あの、ココアでも入れましょうか?」
「紅茶があったらお願いしたいわ」
 暖炉の燃え盛る炎をじっと見ていた彼女は、寝室の扉前に立つアリアの方を振り向き、上品に微笑んだ。
 美しい微笑み。
アリアは彼女に魅入ってしまい、直ぐに返答できなかった。
「……確か、あったと思います」
 顔を赤らめ、アリアは俯いた。
――女の私から見ても、素敵な女性。
アリアは気恥ずかしくなり、その場を逃げるように、キッチンへ行った。
命令されたように感じた。
人を支配する立場の人間なのではないか?
そう思わせるような彼女の態度。
つい従ってしまう。しかし、嫌な気分にはならない。従うことが当然だと、相手を納得させてしまう何かを彼女は持っていた。
湯を沸かしているやかんがぐらぐらと音をたて、アリアは我に返った。
紅茶葉の入ったティポットに、煮えたぎった湯を注いだ。
 紅茶の香りが漂い、アリアの気持ちを落ち着かせた。
 ――何をぼーっとしているんだろう。彼女のペースに巻き込まれて、ぼろを出しては大変。しっかりしなさい、アリア。
 活を入れるように、頭の中で自分に言い聞かせた。
 トレイにポットとカップを載せ、テ―ブルに運んだ。
 白いカップに紅茶を並々と注ぐ。
 アリアは、じっと見つめる彼女の視線を感じた。
 再び赤面し、鼓動が早まる。
 ――だめだ、頭がくらくらする。彼女に見つめられると自分が自分でなくなるようだ。
 アリアは、紅茶を淹れることに専念しようとしても、どうしても彼女の視線を意識してしまい、手が震えた。
 ――この感情は何? 好きとか嫌いなんてものじゃない。もっと、絶対的なもの。
「あ、ごめんなさい!」
 とうとうお茶をこぼしてしまった。
 アリアは、慌ててティッシュで拭き取ろうとして、カップに手を引っ掛けて倒し、指先に熱い紅茶をかけてしまった。
「……あつっ!」
「あなた、大丈夫?」
 咄嗟に、彼女がアリアの手をとり、自分の両手で包み込んだ。
 暖炉にあたっていたはずなのに、ひんやりと冷たい手。
「直ぐに氷で冷やした方がいいわ」
「は、い……」
 アリアはそう返事をしたのだが、その場にくず折れるように座り込んでしまった。
 足に力が入らない。
彼女に触れられた指先から、電気が走ったように体中に何かが駆け巡り、体の自由が利かなくなったのだ。

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