氷の唇8
 膝がつきそうなくらい側で、向かい合わせに絨毯の上に座り込み、彼女はアリアの言葉に傾聴している。
緊張が解け、アリアもその場に座りなおして胡坐をかいた。
「孤独は、絶望を生む。私も、そうだった」
 アリアは、母と暮らしていた当時の、居場所のない、誰からも必要とされない孤独を思い出しながら、かみ締めるように言った。
「小娘のお前に、何がわかるというのだ」
「愛する気持ちは同じでしょう?」
「黙れ。人間風情が、私に意見するな」
 そう言葉を吐いたが、今の彼女は魔物ではなく、美しい孤独な少女に過ぎなかった。
「……愛する人は、あなたが来るのを、何処かできっと待ち続けている。そう信じて、ね?」
 意外な言葉を聞いたとでも言うように、彼女の瞳が大きく見開かれた。
「だから、絶望しないで。諦めないで」
 彼女は困ったように、眉を寄せてから、ふっと優しい表情を見せた。
青い海の底のような瞳から、一筋の涙が流れ落ちた。
 彼女は、涙が頬を伝いぽたりと落ちるまで、その存在に気がついていないようだった。
「な・み・だ?」
 濡れた頬に手を当てて、彼女は戸惑いの表情を見せた。
 泣くなどという感情を、もう何年も忘れて、涙など、自分にはないものと彼女は思っていたのではないだろうか。
こんな風に涙が流れるとは、彼女自身想像もしていなかったのだろう。
動揺が見て取れた。
はらはらと落ちる涙。
少女のように、戸惑う彼女。
 ――泣くことを知らないなんて!
思わず、アリアは彼女を抱きすくめた。
「大丈夫……きっと、大丈夫。いつまでも孤独に彷徨うなんて、そんな悲しいことを言わないで」
 アリアは彼女の髪を優しく撫ぜたが、彼女はされるがままになっていた。
 声も無く、彼女は泣いている。
「あなた、おかしな人……私が怖くないなんて」
「泣いているあなたを、そんな風には思えない」
「優しさに……慣れていないの」
「泣きたい時に、泣いたらいい」
「私が、泣くなんて……泣くなんてこと……」
 アリアは、涙が止まらない彼女を、暫くそのまま抱き締めていた。
 どのくらいの時間が過ぎただろうか。
 不意にアリアは彼女に口付けされ、意識をなくしてその場に倒れた。
そして、彼女は消えた。


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