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氷の唇9
アリアは陽の光で目が覚めた。
寝室のベッド。
いつの間にベッドに寝たのだろう。
「お早う。昨日は待たせたな。朝食の用意ができたぞ、もう起きろ」
寝室のカーテンを開けながら、上機嫌でヒロが言った。
いつ着いたのか、長い髪も後ろに束ね、もうすっかり身支度も整っていた。
「あれ? 彼女は」
アリアは、まだもうろうとしている頭を
起こし、寝ぼけ眼で言った。
「誰かいたのか?」
ヒロの表情が険しくなった。
自分は勝手にふらりといなくなって、女性と過ごしていることがあるくせに、ヒロが知らないところで、アリアが誰かと会っていると、必ず嫌な顔をする。
「うん。車が雪にはまって……」
「車? 何処にもなかったぞ」
「そう……いやいいんだ」
「よくない。どういうことだ?」
面白くなさそうに、アリアより七歳も年上のヒロが、子供のように口を尖らせている。
「……夢を見たのかもしれない」
昨夜のことは霞がかかったように、うろ覚えだった。
――しかし、そんなに酩酊していただろうか。でもあれは、現実?
アリアは、自信がなかった。
待ちぼうけして、服のまま眠ってしまったのかもしれない。
あんなこと、現実にあるはずがないのだから。
「まあ、女なら許す。でも、お前のことだから、女でも危ないか」
ヒロが、ベットサイドに座っているアリアの横に勢いよく座り、アリアの髪をくしゃりと撫ぜた。
「なに? それ」
「だって、おまえ。見た目がそれじゃ、女のほうが勘違いする」
「からかわないでよ」
確かに、アリアの普段の姿は、ちょっと目を惹く中性的な少年だ。
それで、面倒なことになったこともあった。
――だからって、そんなこと言わないでほしい。男の姿でいた方が、なにかと『仕事』がし易いと言ったのは、ヒロなんだから。
おかげで、この姿のほうが自分らしくなってしまったし。
アリアは文句の一つも言いたくなり、ヒロの方を向いたのだが、その拍子に、ついと、ヒロに顎を引かれた。
「まあ、俺には、外見など関係ないが。俺はいつも真面目だよ。いつもお前がはぐらかすんだろう?」
「はぐらかしてなんか……」
そう言いながら、アリアは視線が合わないように、目を伏せた。
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